家族を築いてから脱サラで農業を始めた2組の夫婦。収入は?やりがいは?夫婦の関係と、ライフスタイルは? 語りあうほどに見えてくる、十和田暮らし×農業×子育てのリアル。前後編でお届けします。
豊川聡士 (とよかわ さとし)
1982年十和田市生まれ。実家は代々農家。八戸市内の造船会社に勤務後、2013年にUターン。農業を営む父のもとで研修後、2015年に独立。
豊川麗加 (とよかわ れいか)
1985年八戸市生まれ。前職は営業事務。2010年に聡士さんと結婚。家族構成は夫婦と聡士さんの両親、6歳の長男、3歳の長女。
畑山幸彦 (はたやま ゆきひこ)
1979年十和田市生まれ。実家はもともと葉タバコ農家。大学・実業団と首都圏に住みラグビーに打ち込む。夫婦でUターン後、農協職員を経て2012年に就農。
畑山千春 (はたやま ちはる)
1979年埼玉県小川町生まれ。2005年幸彦さんと結婚。小学5年生の長男・3年生の長女と夫の4人暮らし。
現在手掛けている作物は?
ネギとニンニクが主で、あとは米も始めました。
ナガイモとニンニク、サツマイモ、ミニトマト、米。これがメインで、西洋野菜も少し。エシャロット、西洋ニンジン、ルッコラ、セロリアック(根セロリ)、ハーブ類なんかですね。親父はゴボウをやってます。
「うちの野菜はこうだよ」っていう特徴や、おすすめの食べ方があれば。
畑山さんのネギは絶品ですよ! お味噌汁に入れるものでも、こちらのネギを使うと全然違う。
そのままでもおいしいけど、加熱すると特に甘くなるよね。
うちではラーメンにも汁物にも常にどっさりネギを入れます。ラーメンはお店のみたいに山盛りにして。ぶつ切りにして焼いて食べるのもおすすめ。辛くないから、子どもたちもよく食べますよ。
うちの子は最近、サツマイモばっかり食べてます。焼きイモか天ぷらか。この間はイモご飯もしましたね。
サツマイモって南国のイメージがあるので、栽培されていることが意外です!
安納芋は確かにやっているのはうちだけですね。作ってる人が他にいないので、競争がなくて、自分で決めた値段で出せるんです。おいしいですよ。
就農のきっかけは、それぞれどんなことだったんでしょうか?
母が亡くなり、父だけで農業を続けるのは難しくなった。私たち世代が入ることで農業が続けられるならと、就農を決めました。
うちも実家が農家で、ほかの兄弟が継ぐことになっていたので私は家を出ていたんです。でもその兄弟が事故で亡くなって、父から「戻ってくれないか」と話がありました。そのときやっていた造船会社の仕事も面白くて迷ったけど、実家がなくなるのは嫌だったので。
なるほど。おふたりとも就農時点でご結婚されていて、別の仕事をなさっていたわけですけど、奥さまはそのときどういう気持ちで?
家を買ったばかりの頃で、ローンとか子育てとか、色々不安はありました。でも彼が「やりたい!」となったので、始めてしまいました(笑)。
うちも、もう決めたなら「じゃあ」みたいな感じで。
「実家がなくなるのが嫌」って気持ちは分かります。僕は関東の大学で寮生活だったんですけど、ニンニクやナガイモを無性に食べたくなるんですよね。送ってもらって、みんなに食べさせると評判がよくて。そんな風に、離れていても食べたくなったし、友だちもおいしいって言ってくれて、自慢でもあったし。だから帰ってきて、継いだのかなって気がします。
就農時点で農業で稼ぐ目算は立っていたんですか?
子どもの頃から手伝ってきたから、作物を作るスキルはある程度あるんだけど、売り方を知らなかったです。(出荷先は)全部農協でもいいけど、正直、収入がちょっと落ちる。親父は自分で売り先を見つけてて、そのやり方が分かってきて、ようやく自分たちでもできるかなと思った時点で独立しました。親父とは今も一緒にやっている部分もあります。
もし新規就農するなら十和田は比較的やりやすいと思います。土地もあるし、色々な作物が穫れる土壌もあるから。それでも最初はお金が大変だよね。
マイナスからのスタートなんですよね、結局。うちは新規就農者向けの補助金をもらったけど、制度がなければ就農はきつかった。補助金も始めにもらえるわけじゃなく、1年後くらいなんですよ。それまでの間は貯金を崩して生活しました。作物も1年目はスキルがないからうまく育たない。となると収入も初めは期待できない。
就農から5年間補助金をもらえる間にスキルを上げて、機械を買うときの補助金を使って機械を買って、ようやく軌道に乗りました。
新規就農者に出る補助金、うちはあと1年もらえるかな? 機械を買う補助金は点数制度があって、農地面積や年齢が関係するんですよ。うちの場合、1つの作物だけ面積を広げるとリスクが上がるので…不作の年はどうしてもあるので。だから申請してないです。
収穫、出荷しないと収入がない。なのに肥料代や機械の管理費を払うとなると、プールしているお金がないとマイナスになる場合があるんですよ。だから最初の資金はある程度必要ってことと、年間の収入計画は必要です。就農を考えるなら、うちとか畑山さんみたいな先輩農家のところに研修に行って、栽培技術とか経営のこととか、勉強してからのほうがいいと思います。
農家の年間スケジュールはどうなっているんですか? 一番忙しいのはいつ?
うちは12月~1月末ぐらいまでは休みがないです。ナガイモの掘り取りと出荷があって。
1日のスケジュールは?
子どもに合わせて7時くらいには起きて、保育園に送ったら仕事。夕方は6時に迎えに行って、晩ごはんとお風呂を済ませて8時くらいから第2ステージ (笑)。夜1~2時まで。夜の間に道の駅に出荷する分を準備して、朝出荷しに行って、戻ったらまた掘って。これが1カ月半~2ヶ月くらい続きます。米をやっているので、4月~10月も忙しいし。
逆に休める時期ってないんですか?
比較的落ち着くのが、にんにくの植え付けが終わって、片づけたりして、11月の2週間くらい。
休みは何をする?
旅行! この間は5泊6日でディズニーランドに行きました。うちはまだ子どもが2人とも保育園なので、長い旅行は今のうちかな、と。
畑山家の繁忙期とスケジュールはどうなっていますか?
5月末の田植えから始まって、6月下旬から始まるニンニクの収穫、ネギの作業をしているうちに10月が終わりますね。
その間は何時起き、何時就寝ですか?
暑いときに作業したくないので、夏場は朝4時30分頃には畑にいるようにして。夕方は出荷の仕事が入るとそれをやって、帰るのは夜7~8時って感じですね。子どもたちとご飯食べて、9~10時くらいには子どもたちと寝る。そこまで忙しくない時期はもう少し遅くて、朝7時頃に家を出ます。
休みの日は?
子どもたちが部活をやってるから、遠征に練習試合と週末はスケジュールが埋まりますね。遠征がちょっとした旅行みたいな感じかな。あとは年末年始に埼玉の私の実家に帰って、そこを起点に色々行きます。それこそディズニーランド、都内の遊園地、アウトレットとか。
収入についてはどうですか? それぞれおふたりずつお子さんがいらっしゃいますが、不安なく子育てはできている?
機械買わなきゃ全然いけると思いますよ。機械は何十万単位がどんどん出てくから。
初めは機械が高くてビックリしてたんですよ。それがなんかだんだん、「10万円?安いね~」ってなってくる(笑)。
そうそう、金銭感覚がマヒしてきちゃう!
「1,000万円は高いかもなぁ」ってなって(笑)。実際、設備投資が少なければ返ってくるものも当然、大きい。設備投資は行政とかの制度をうまく使うことだよね。
金銭感覚のマヒが思わぬ罠ですね…!
幸彦さんと聡士さんはご実家が農家ですが、千春さん、麗加さんは、結婚するまでに農業のご経験は?
結婚前に遊びに来たときにニンニクの皮むきを手伝った程度。ちょっとやればけっこうお小遣いがもらえたので(笑)。苦じゃなくやってました。
私は全然。草取りもしたことがなくって。
いきなり農家の嫁になるって、大変ですよね? 結婚したときはふつうにサラリーマンだったのに!みたいな…。
でも、十和田は人が優しくないですか?
…うん。
ちょっと間があったね、今(笑)。地域で交流があるからいいなと思って。ご近所さんに野菜あげたり、もらったり。私は県内の出身ですけど、地元でも今はこんなに交流しないから。
私は来た最初の頃は正直、おせっかいだなって思ったこともあった(笑)。定期的にだんなさんの実家に行くじゃないですか。それがたまに行かないだけでご近所さんが「どうした⁉」って心配してくれて。どこで見てるの?なんで知ってるの?って (笑)。でも、困ったときの助け合い精神がすごいんですよ。相談したときの集合率が。そういう優しさに触れてから、気にかけてもらっているのがどんどん嬉しくなっていった。それに、ちょっとなんかやっただけで「えらいね~」って言ってもらえます…。
そうそうそう! すごいよね、ほめてくれて。ちょっと草取りしてると「若いのに、えらいねぇ~」って。
大人になってほめられることってないじゃないですか。ご近所さんがめちゃくちゃほめてくれるから、もうそれだけで「ありがとうございます!」ですよね。
たぶん、農家の嫁の辛さを分かっているから。お母さん世代は、私たちよりずっと大変だったと思います。機械もないし、だんなさんが家事をやってくれるとかもなかっただろうし。
で、こっちに振られるんですよ。「嫁がやってるのにオマエは何やってるんだ」と。え、俺?みたいな(笑)。
子どもにも「ほら、これ食べろ」ってアイス買ってくれたりとか。ご近所さんみんなが子どもたちのことを知っててくれてるので、安心できます。
子育てするにはすごくいい環境じゃない? 1軒1軒、庭がすごく広いのも。
太鼓叩くゲームとかガンガンやってても、誰も文句言いに来ないしね(笑)。
待機児童もなし。保育園は選べるし、待たないし、保育士さんたちもすごく優しいし。
これは農家というか自営業の良さかもしれないけど、どんな忙しいときでも子どもたちの行事には欠かさず行きます。1時間だけ抜けるとか、お勤めだとできないですよね。うち繁忙期はバイトさんが来るんですが、みんな「行っておいで~」って送り出してくれる。
確かに! 子どもが風邪引いたときも、誰かに許可取らなくても休める。あとは、自分たちが作ったものを子どもたちが「おいしい」って食べてくれるのはやっぱり嬉しいです。(子どもたちが)これ好きだから、この作物来年も作ろう!とかも自分で決められるし。子どもたち、好き嫌いないですよ。
今回の取材場所
十和田市現代美術館