メディアでは、明確な目的を持って移住した人を取り上げ、「移住」と「まちおこし」を一緒に語ることが、よくあります。
かくいう私たち「語ログ(カタログ)」編集部も、地域から情報を発信するクリエイターや、志を持って起業した人を多く取材してきました。
では移住者=表立った活動をする人か?といえば、いえいえ、そんなことはありません。
朝起きて、子どもたちにごはんを食べさせて、仕事に行って、たまに気晴らしをして。
派手ではないけれど、忙しくも愛しい日常を、ここ十和田で積み重ねている人もいる。
今回はそんな働くママに、子どもたちと一緒にお話を聞かせていただきました。
福山 香織(ふくやま かおり)
1987年生まれ、群馬県前橋市出身。高崎健康福祉大学短期大学部(~2013年)卒業後、保育士として県内に勤務。2009年から東京都在住。2019年4月、十和田市出身の夫、子ども2人とともに十和田市に転入。現在は市内のこども園で働く。
十和田に来ることになったきっかけは?
下の子がしょっちゅう熱を出して、なかなか保育園に行けないような時もあって。私も仕事に行けなくて。おじいちゃんやおばあちゃんがそばにいるところで子育てできたらいいな、ということと、塾講師の夫が独立を考え始めたタイミングだったというのがありますね。
香織さんの地元の前橋か、旦那様の地元の十和田か。十和田に決めたのはなぜでしょう?
夫の仕事の将来性を考えて、ですね。独立するなら知っている土地のほうがいいし、学習塾のニーズも伸びそうだということで。私は群馬も推したんですけどね(笑)。
移住前、十和田にはどのくらいのペースで来ていました?
年に1回、お正月ぐらいでした。だから雪のイメージしかなくて。私は寒いのが苦手なので、一番の心配は冬の寒さだったかな。
一昨年に転入されて2回冬を越していますが、どうでしょう。慣れましたか?
だんだんと慣れるんですかね。昨シーズンはお隣さんの車が雪の中立ち往生したのを一緒に押したりとか…。我が家のエアコンの室外機が雪で埋もれちゃったので、仕事から帰ったら毎日窓から飛び降りて雪かきしてました。今、家を建てようかと計画中です。
新築の場合、十和田市には移住・定住住宅取得等支援事業補助金がありますね。移住の際に利用した制度などはありますか?
十和田市の移住支援金(※)と、私の場合は保育士なので、就職するときに青森県社会福祉協議会の保育士就職準備金貸付を利用しました。仕事で使うエプロンとかを揃えなくちゃならなかったので、助かりましたね。
※【補足情報】十和田市移住支援金
東京23区に在住又は東京圏から東京23区へ通勤していた方で、十和田市に転入し、移住支援金の対象となる求人に就職した方などへ、支援金を交付する制度。
詳しくは→ https://www.city.towada.lg.jp/kurashi/ijuu/ijuu/toukyouken.html (十和田市ホームぺージ)
十和田に来て、暮らしの中で変化したことは?
お店が早く閉まるから、早寝早起きになったかも。休日は目一杯遊ぶから、帰りの車の中で子どもたち寝ちゃいますし。
意外に変わらなかったのが光熱費。東京は家賃が高いけど、車の維持費は要らなかったんですよ。車生活になっても家賃の差額で余裕ができるはず…と思っていたら、プロパンガス代が意外とかかりますね。
子育て面ではどうでしょう?
保育所に園庭があるのがありがたいです。
えっ? 東京には園庭ないんですか?
長男を最初に預けたこども園は無認可で、普通の一軒家だったので園庭がなかったんです。2歳から認可保育園に入ることができたんですが、やっぱり園庭がなくて。うちの子、走るのが大好きなんですが、廊下しか走るところがないから走る、先生に怒られる、の繰り返しでした(苦笑)。
メディアで都市部の「保活(子どもを保育園に入れるための活動)」の厳しさが取り上げられたりしますが、本当なんですね…。
「共働き」「親戚縁者が近くにいない」とか条件が揃っていないと預けられないし、正直、入園できるなら贅沢は言えないというか。「しょうがない」って思っていました。だから、十和田に来て「園が選べる」って聞いて「え⁉」って。今の園は3つくらい見て回って、クライミング遊具があるからって、長男が気に入って選びました。
今は思いきり遊んでるんですね、きっと。長男くん、よく日焼けして。
おかげさまで、のびのびしてます。
都市部にはない良さかもしれませんね。逆に不便な点もあったりしますか?
う~ん…。十和田の人って優しいんですよ。先生方も優しい。その分、子どもたちが社会性を身に着けるペースが、少しのんびりかも? 東京にいた頃は、遊びもルールを決めて遊ぶことが多くて。でもこっちではそれぞれが好きなことをしていて、一人遊びが多い気がします。ルールのある集団遊びは社会性を学ぶ場にもなるんですが、そういう学びの機会がちょっと少ないかな、と思うことはあります。
なるほど。保育士としてご自身も働いてらっしゃいますが、お仕事面での違いは?
それはないですね。東京では保育士だけじゃなく、お花屋さんと子ども向けアミューズメントパークのスタッフもしていたんです。色々な職場を見てるせいもあってか、特に地域性は感じませんね。
親子で遊びに行くお気に入りのスポットはありますか?
この市民図書館にはよく来ますよ。長男が今、先生ごっこにハマっていて、妹に読み聞かせをするんですね。それで、紙芝居とか絵本を借りたり、「おはなしルーム(図書館内の子ども用スペース)」を使ったりしています。去年の夏行った「幻の穴堰」も良かったです。
“幻”ってすごいですね。
車で国道を走っていたらのぼりが立ってて、気になって行ってみたんです。そしたら江戸時代の掘削跡がそのまま残っている洞窟みたいなところで。係員さんがいて、長靴にヘルメットを借りて進むんですが、水が溜まっていて、暗くて、コウモリにもちょうど遭遇して。子どもたち大興奮でした。「行くぞ~!」「進め~!」みたいな(笑)。探検気分が味わえるし涼しいし、夏におすすめです。
あとは道の駅奥入瀬「奥入瀬ろまんパーク」で水遊びして、五戸町の「ひばり野公園」でアスレチックで遊んで。八戸市の「こどもの国」もいいですよね。最初に冬季休業があるって聞いたときはショックでしたけど(笑)。
十和田の「ここが好き」と「もっとこうなったらいいな」というポイントを教えてください。
生活で不便を感じることは特にないですが…。強いて言えば、自然が豊かなので、遊べる場所や公園の設備が加わればばもっと楽しいかな。公園の遊具とか、アスレチックとか。アスレチックは大人も子どもも楽しめるし、そういう遊び場があれば、コロナが収まった後に観光客を呼びやすいんじゃないかなと思います。
あとは雨の日とか冬場に遊べるところがもっとほしいですね。そういう施設が増えたら、若者の移住もしやすくなるんじゃないかな。カラオケとか!
カラオケですか。
私、カラオケが趣味なんです! 十和田は来たときからカラオケ店が少なくて。さらにそのうち1軒がコロナ禍で閉店しちゃったんですよ…。今は車の中で歌ってます(笑)。
十和田湖の真ん中で歌っても気持ちよさそうですね(笑)。
カラオケといえば、十和田は秋祭りにカラオケ大会があるんですよ。で、けっこう皆さんステージに上がって歌ってますよね。同時開催したバスケットの試合にも、知人が参加していたりして。十和田の人は、ふだんのんびりしていても、いざとなると人前で堂々と自分を表現する人が多い印象です。今はコロナでお祭りも制限がありますけど、また大々的にやってほしい!
都市部よりも人口が少ない分、一人一人の存在感が出しやすいのかもしれませんね。十和田の人、やるときはやる、と。
あと、さっきも言った通り優しい人が多い。夫の実家が今はおいらせ町にあって、車で移動する距離ですが、家の近くにママ友が住んでいるから助けられてます。私が体調を崩したときも「何かあったら言ってね」とメッセージをくれたり。ママ友もけっこう移住者が多いですよ。
温かいつながりですね。もともとの地元の方も優しいし、移住者の方は知らない土地で生活するときに困ることや気持ちが分かるから、助け合える。「語ログ(カタログ)」もプロジェクトを始めて5年目になりますが、つながりを作る助けになれていたら嬉しいです。
とはいえ、実家からも週に2~3回電話が来ますよ(笑)。母は今でも心配してるところもありつつ「あなたはどこでもやっていけるから大丈夫」とも言われます。
確かに…福山さんは大丈夫な感じがします。無理して楽しもうとしていないし、かといって不満もそれほどないということで。移住というより「引っ越しました」って感じで。自然体ですよね。
私、服とか持ち物とかでも、こだわりがそんなにないんです。どこに住んでいても、働いて、帰って、子どもたちの顔を見て安心して、また頑張るぞ!って思うことに変わりないですし。
なるほど。小さなことにこだわらず柔軟でいることが、移住成功の秘訣かもしれませんね。今日はありがとうございました。
ありがとうございました。
図書館内の児童書コーナー奥には、読み聞かせができる「おはなしルーム」があります。
今回の取材場所
十和田市民図書館