ここで暮らす人々のことばを集めて、大切に棚に並べていく。十和田のリアルな日常を伝える”カタログ”として、十和田語LOGが始まったのは2017年。記念すべき第1回目として開催した座談会メンバーの中に、Uターン後にウェブ制作会社(株)BE-CAUSE(ビーコーズ)を起業した村岡将利さんがいました。
移住してウェブ制作メインからスタートし、コミュニティスペースの運営を通して十和田というまち、そこで暮らす人々との繋がりから新しく見えてきたこと。そして地域の持つ問題を解決するために、さまざまな活動をするきっかけと、これからのことをビーコーズのオフィス兼多目的スペース「third.」でお聞きしました。
むらおか しょうり
村岡将利
1986年、青森県十和田市生まれ。東京でWEB系エンジニアとして2社経てフリーランスとして独⽴。その後、⾃分が育った地元を変えてみたいと⼀念発起しUターン起業。2016年、WEB制作会社(株)ビーコーズを設立。会社経営はもちろん、スペース運営をしながらコミュニティ作りやイベントの企画・運営を行い、地元での新しい価値・⽂化づくりに挑戦中!
2018年にコミュニティカフェ「second.」、2019年には2階がビーコーズのオフィスで1階が多目的スペースの「third.」。ビーコーズは拠点を増やしていますが、2016年に移住してから今までで変わったことってどんなことがありますか?
そうですね、十和田のまちに関して言えばかなり変わったなと思っています。でも、あんまり何かこう劇的に変わったというよりは、こっちに住むようになって、解像度が上がってよく見えるようになったイメージです。住む前とか住んですぐの頃はあまり繋がりもなく、もともと存在していた人や、イベントとかに気づいていなかったです。移住して7年目になるとやっぱり見えるものが違ってくるというか、新しいものに気づく感じがします。
今思うと、ここら辺でこういう風に変わった、見えるようになった、という節目っていつごろですか?
second.を始めたころですかね。2018年にsecond.を始める前は、本当にウェブ制作だけで。外に出るわけでもなく自宅兼オフィスでやっていて、地域との接点がほぼない状態だったので。
お仕事も東京のお客様が多いとおっしゃってましたね。
今もそれはあまり変わらず多いのは多いんですけど。地に足が付くというか、根を張るという意味でのsecond.っていうスペースを持ったことによって、地域との接点が増えるようになったかなと。イベントもやるようになったので、そこで増えていった気がしますね。その前は接点を作りたいなっていうので「村岡塾」って名づけた個人でやる起業支援みたいなこともしていました。だけど、それは1対1の関係というか相談窓口みたいな感じになっていたので、それとは違う、スペースを設けて複数の人と時間を共有するみたいなところが増えたので、その点が一番変わったところです。
場の力は大きいですね。
大きいです。もともとは僕らの遊び場みたいな感じで作ったんですけど、それだけだともったいないなっていう気分にもなってきて、「みんなで使えればいいな」っていう。でも使うにしても、「自由に使って」って言われてもけっこう難しいじゃないですか。なので、ある程度ルールとか決めて、「こういう人が対象」って絞ったイベントにすれば集まりやすいと考えて、実際にやってみるようになりました。月1回イベントを行って、そこからだいぶ十和田の中の人も外の人も来る機会を作れた気がします。
目的や枠をある程度決めたほうが来るほうも来やすいんですね。
そうなんですよ。場所を用意してコンセプトだけ決めておけば集まりやすい。以前からITとかデザインとかやっている人が集まって、それぞれの活動を話す「クリエイターズアパートメント」っていう月イチのイベントをやっていました。人前で話す機会、聞く機会を持つため、インプットとアウトプットするっていうことが目的ですね。
人前で話す機会がこっちだとあんまりないなと思って、そういう学びの機会を地元に増やしたいっていうのがあって。それを気軽に、3分とか5分とか多くても10分ぐらいでやってもらう場にしました。1ヶ月に1回やるので、間が空いて数カ月に1回でもアウトプットできる。
確かに、あらためて自分の仕事について言葉にしたり、まとめたり、総括するチャンスって人の前に出るとでも思わない限りあんまりないですね。
結構喋りたい人がいるんだなっていうのは気づきました。八戸や弘前からも来ますし、あとは東京から来る人がついでに寄るみたいなのもあったので。イベント後は交流会という名の飲み会で、12時過ぎまで熱く語るみたいなのが毎月できあがってました。
このイベントがなければ今の価値観とか、地元に対しての思いはなかったかもしれないです。
では解像度が上がった、見えてきたっていうのは、価値観の変化ということですか?
second.を作って、イベントやって、いろんな人と付き合って、地元の人もいろんな職種の人が集まるので、知らなかったことを教えてもらって。人だったり、イベント事だったりを紹介してもらって、また世界が広がっていくみたいな、ただの飲食店だと思っていたところが、話を聞いてみたらしっかりとしたコンセプト持ってやっていたとか。そういうのを深く知ることができるようになって見方とか考えが変わった気がします。
「クリエイターズアパートメント」もそうですが、イベントをやりたい、から始まってはいないんですね。
イベントをやりたいとか全然なかったんですけど、やるようになったらイベントの企画運営のお仕事とか「こういうのやれないか?」みたいな話も来たりして、いろんな切り口でイベントやったりとか、僕ら自身やることの幅が広がった気もします。
イベントを企画するときに考えるのが、僕自身も解像度が高くなったっていう話をしたいのですが、ほかにも地元にはこんな人がいるっていうのを発信したいんです。できるだけ地元の人、自分が関わりあるとか、知りたいと思っている人を軸に考えます。自分が一番満足するようなことをやって、みんなにも共感してもらいたいなってことが起点にあります。だから対談したり、人を掘り下げていったりとかっていうのが多い気がしますね。
さて、「お試しとわだ暮らし」は、リモートワーカーに特化した移住促進のための事業ですが、どうやって形にしていったんですか?
※「お試しとわだ暮らし」とは https://otameshi-towada.be-cause.co.jp/
来る人にも、もちろんいい体験をしてもらうんですけど、受け入れる”中の人”にもいい経験とか体験を落としたいなと思っていて、そこの部分をすごく考えました。来る人ファーストではなく、受け入れる人ファーストで考えた部分も多いです。だから面談をして、どういう人を選んで受け入れるのかをすごい大事にしました。
確かに、HPを見ていて「来たはいいけど…」と途方に暮れないようにお世話してくれるんだなって思ってました。いつ仕事して、いつ誰に会うか。スケジューリングも含めてしっかりサポートがついているのがいいですよね。
全部が全部じゃないですけど、アンケートでもかなり満足度が高くて。
初年度の2020年は実はコロナで呼べなくって。仮想リモートワーク体験っていう動画を作ったんです。参加者に動画を見て仮想体験してもらって、アンケートもらうみたいな。対面でちゃんと話してみたのは次年度からです。
そうなんですね。どんな人たちが参加されていますか?
夫婦とか子どもさんと一緒に来る方やお一人の方、ほかには企業での参加もあって。twitterでも「ただ呼ぶだけじゃなくて、その後のコーディネートとか、その地元の人に会えるみたいなところがいい」って褒めてくださる方もいて。
どんな人と会えるか一覧で出ているのがいいですね。20名以上いらっしゃいますよね。
まだ増やしたいんですけどね。十和田在住の人だけに限定せず、”十和田に関わる人”っていうので選んでいるんですよ。十和田に暮らすにしろ他にしろ、市内だけで関わる人って多分いないと思うので、広域に捉えてます。岩手・秋田までもっと伸ばして、広域のコミュニティの輪みたいなところで受け入れ体制を構成したいなと思っています。そこまでして初めて十和田の価値も上がるのかなっていう。十和田だけで考えているとだんだん苦しくなってくるのかなというのもありました。
こういった事業で成果っていうと何組来て何組移住しましたっていうのが形としてあるけれど、そこからはみ出す何かもあるんですか?
最初は「10組まず呼びましょう」からスタートして何年かやって、移住させるっていうところが最終目標ではあるんですけど、成果としてはあんまり意外と意識してないところもあって…。いややっぱり意識はしてるんですけど、体験してもらえるような環境作りに注力しています。
他と一番差別化できる部分って、人だと思うんですよ。誰が住んでるかはそうそう変えられないので。
海があります山もあります食べものがおいしいです…って、けっこうどこも当てはまったりしますもんね。
だからこのサイトもそうですけど、観光情報はほとんど出していないんですよ。そういうことは、移住しようと思ったら自分で調べると思うんですよ。
それに引き換え、地方だと特にどんな人がいるかは分かりにくい。ウェブの知識の違いもあるのか、発信してない人も多いから分からないですね、確かに。
人にたどり着くのって多分、難しいんですよ。普通にふらっと来て「起業してる人に会いたい」と思っても、なかなか会えないですよね。ここが圧倒的に差別化できるポイントというか、やり方を真似されても中身が違うから真似にならない。実はそのコンセプトが刺さって移住してくれた方も実際にいます。
おー! 効率がいい出会い方ですよね。すでに何かを持っている人が来ることで、まさに”中の人”が刺激を受ける構造になっていますね。
言い方が難しいですが…ウェブサイトにしても、あえてちょっとハードルを高くしているところはあります。観光だけしたかったら人に会うって、逆にハードル高くないですか? 移住者の方が来たら地元にも刺激があって、活性化するようにって少しだけ意図的にやっています。
本業のウェブ制作、コミュニティカフェ「second.」運営とイベント開催、そしてこのオフィス兼多目的スペース「third.」も活用した移住事業と、本当にお忙しいですよね。
最初お会いした時はご夫婦お二人でしたけど、今は、かわいいお子さんがいらして。家族構成が変わって変化はありましたか?
子どもが生まれて変わったことは、教育のことを考え始めました。もともとけっこう課題感はあったんですけど、あらためて。
例えば、商店街の活性化とか若者の活動サポートとかを事業としてやって思うことは、やっぱり若者がまちに出てくる機会がないなってことです。僕もそうだったので、分かるんですけど、何十年か経っている今も当時とあまり状況が変わってない、変えられてないみたいなことを感じています。
じゃあ、自分の子どもが同じような学生のキャリアを積むとしたら、多分また同じことが起こるんじゃないか? と。それって別に悪いことではないと思うんですけど、せっかくだったら僕らの時“以上”になってほしいと思う。でも今のままだと、これ以上よくなれない環境なのかなっていうのは、すごく課題として感じます。
学生生活で知っている大人は先生と親ぐらい、みたいな。キャリアに関係する経験とか体験が足りない気がします。学校と家を往復する生活だと視野は広がらないですよね。
行くところって学校、家、塾ぐらいでしたもんね。学生の頃って。
例えば、アルバイトとか。僕らの時は長期休暇の時にはできたけど、働く時の職種に関しては、飲食店ホールとか新聞配達、郵便局とかで、今もそれ以外の選択肢はあまりないんじゃないかと。東京は、アルバイトでもデータ入力とか企画職とかもあって、僕ももちろんしてたんです。
学生のうちにビジネスの世界を覗けるアルバイトが少ないのが課題かなと思ってます。学校は学生の生活の中心として置いておくとしても、その付随する環境に関しては、地元に今、存在する企業として何か取り組んでみたいです。選択肢があるって大事だと考えてるんで。
ロールモデルがいない、少ない。選択にバリエーションがないっていうのは” 地方あるある”な気がします。
今だったら、子どもたち向けの環境をつくるというよりは、どちらかというと、子どもたちに関わる大人たち向けに何かできたほうが可能性がある気がしています。先生とか保護者さんにアドバイスとかサポートとかできる人がもっと増えた方がいいのかなっていうのは思ってます。
地域社会をつくるのって大人ですもんね。どういう地域に住んでいるか、どういう大人が周りにいるかって、子どもたちに大きな影響を与える環境要因ですね。
そうですね。子どもたちに新しい時代に合った経験とか情報を伝えていく必要は絶対にあるんですけど、僕らがやるんだとしたら、まず大人をちょっと変えるところからやりたい。
ここからは経営者の村岡さんにお聞きしたいんですけど。村岡さんって経営者っていってもフラットで。いい感じに仲間に囲まれながら、人を繋げながらお仕事をされているイメージがあって。その辺はどうですか?
うーん。関係づくりは…さっき言ったようにイベントをやることで増えたりしますし。あとはこういう取材の機会をいただくことでも広がるし。本質的なところで言うと目指している世界観が合うかどうか。その場限りの付き合いになる人もいれば、一緒に何かやる人もいて。だから僕らの思考だったりとか、存在理由とか、価値観とかっていうのをなるべく表現したいなと思っています。
これからは人を増やして会社を大きくするって思っているので…今は5人で、4月から6人になるんですけど、それからさらに1~2年ぐらいで10人ちょいぐらいまでいきたい。そうなると今の僕の業務とか権限とかを移譲していく必要が出てくるとして、マインドの部分すごい大事だなと思っていて。今までは人数も少ないんで口頭でなんとなく分かるよねっていう感じで成り立ってたんですけど、新しい人が入ってくると、そうもいかなくなってくるなっていうのがあって、何のためにやっているのか。その想いを言葉にしてまとめることに今、取り組んでいます。
それ、とても楽しくないですか?
正直、今めちゃくちゃ面白いです(笑)。それを見て一緒にやりたいっていう人たちが多分、一緒にやるべき人たちで、ミスマッチがなくなると思ってます。理想ばかりじゃ仕事はできないんですけど、理想もなしに仕事ってできないと思っています。まちの規模が小さくて人との関係が自然に密になっちゃったり、お金だけでつながれるほど経済規模が大きくない。地方だからこそ特にそこも大事だと思っています。
なんかこちらもワクワクします。
今まではけっこうプレイヤーの要素が強かったんですけど、2年くらい前から手放し始めて、今は僕が直接関わる業務は6~7割ぐらいですかね。業務を移譲するようになって、経営全般のことをようやく地に足を付けて取り組めてきているという状況です。
経営方針の「ビジョン、ミッション、バリュー」って、大企業だけが持つものではないですよね。これからは地方とか中小企業こそ持ちたいものだと、ライターをしていても思います。
ウェブを作るのは企業の顔を作ることなので、明確な経営方針を持っていないとなかなか難しかったりします。同業他社がいくつあっても、同じ顔ってないはずで、その企業が何をしてきて、何を大事にしてるのかが、ウェブをつくる上で僕らは大事だと思っています。地方でもそこの大事さに気づき始めている企業も出てきている気がしています。僕らもその価値の見直しとか価値づくりに何かしらお手伝いできればと思っていますね。
ウェブを作るには本質に触れないとちゃんと作れない。その作る過程でコンセプトを作るとか気づくとかにつながるようなことを、ビーコーズで手助けできるかもしれないですね。
今までのお話を伺って、村岡さんはずっと人にこだわって、人を中心に考えていますよね。
そうですね。東京から移住するってことは、そこでずっと暮らすっていうのをイメージするので。東京ではできなかった、 “ストックする関係”というか積み重なっていく関係みたいなものは、すごく大切にしたいなと意識しています。東京だと人との関係性があまり続かないというか、人の移動もよくあるし。仕事だけの付き合いとかっていうのもたくさんあったので。
たしかに、東京だと1つの関係性が続かなくても次がある、あっちにもこっちにもある、という感じですよね。
ストックできる関係をどんどん作っていきたいなっていうのがあるので。ありきたりかもしれないですけど、そこであれば差別化できる、他とは違うって言えるというところですね。さっきのお試しとわだ暮らしのやり方と同じですよね。
色々な人がいますが、誰とどういう風につながるかっていうのがビーコーズオリジナルで、村岡さん発のつながりで、お試しとわだ暮らしのサイトができている。
お試しとわだ暮らしは、コーディネートする僕らも楽しいんですよ、十和田市以外でも南部町とか三沢市とかに、いろんな方々に会いに行けて。お試し移住の方と一緒に体験するのも楽しいし、お試しに来る方の新しい価値観に触れることができるのも、めちゃくちゃ面白いですね。体が足りなくなりますけど(笑)。
観光のお客さんなら「この場限りだし、いいところだけ見せておこう」みたいなこともありますが、移住先候補となると、そこから続いて行ったらいいなっていうことを前提にお互いを知ろうとするから、より豊かな時間になるのかもしれないですね。
今日は面白いお話をたくさん聞かせてくださって、ありがとうございました。
今回の取材場所
ビーコーズ ワークスペース「third.」