木のぬくもりを感じるバレル(樽型)サウナの後は、水風呂代わりに十和田湖にダイブ!
宇樽部キャンプ場内にある貸し切りサウナ「十和田サウナ」は、全国から多くの“サウナ―”が訪れる十和田湖畔の人気スポットです。
2024年5月、そんな同施設に新たな管理人がやってきました。
“ご縁”に導かれ十和田湖にたどり着いたと話す彼女の名前は、千葉 亜希保さん。
湖畔の大自然をバックに、移住のストーリーを伺いました。
ちば あきほ
千葉 亜希保
1991年、茨城県生まれ。2010年、東京消防庁に入庁し約14年間、消防士として勤務。在職中は東京都・神奈川県に住む。2024年3月に同庁を退職後、約1カ月間かけ車で本州を北上。同年5月に十和田市に到着し住み始める。同時に十和田サウナのスタッフとして勤務を開始。
高校卒業後から東京消防庁に14年間お勤めされ、退職後は車で一人旅をして、その後、十和田湖そばに移り住んだということで、まずはその頃のことを振り返っていただけますか?
きっかけは友人ですね。東京消防庁で同僚だった青森出身の友人が先に十和田湖のそばに住んでいたんです。2023年の夏に連絡をするきっかけがあって、「遊びにおいでよ」みたいな感じで、たまたま休みがあったので、その秋にふらっとこっちに来たんです。そしたら…なんだか「ここに住む」って気がしたんです。なんでしょう? 直感ですね。
十和田に住むためにお仕事を辞めた、ということでしょうか?
そうですね。本当に移住のために。
直感で決められたとは思い切りましたね。
ですね(笑)。でも元々、自然が好きで。特に2~3年前、30前後ぐらいからかな。そういう思いがますます強くなりました。屋久島に行って山に登って、登山ガイドさんのお仕事を間近で見たりして、自然の近くで仕事をすることや、自然の中に住むことってすごくいいなと。といっても漠然といいなって考えていただけだったんですけど、それがたまたま去年の夏に形になったっていう感じかな。
「ここで暮らしたい」と感じたタイミングは?
ここの雰囲気だったり、友人が会わせてくれたこっちのお友達や知り合いの方々の雰囲気に触れて、すごく良いところだなって思って...徐々にですね。友人は私より2年早く消防を辞めて、私と同じように退職後は旅をして、ここに住み始めたんです。多分、十和田サウナが良かったんですよね。最初はお客で行っていたのが、スタッフになって働いていたくらいなので。
だから引越す前に、十和田サウナのオーナーにも会わせてもらっていたんです。十和田サウナのオープンは2021年なんですけど、オーナーご夫婦はその何年か前にこっちに移住してきてサウナを始めたんです。今は、そのオーナーご夫婦のご近所に住んでいるんですけど、移住前に来た時にもお家に招いてもらって、一緒にご飯を食べたりしていました。そこから、オーナーご夫婦を通じて他の移住の先輩とか地域の方にもお会いしてお話をしていました。おじいちゃんおばあちゃんもいれば、30~40代の方もいて、キャンプ場とか観光のお仕事をしている方もいれば、長く住んでいる地域住民の方にも、色々会えたんですよ。
皆さん楽しんで暮らしている様子が分かったし、「来るんだったら歓迎するよ」って言っていただいていたので、安心して来ることができました。やっぱり住民が少ない地域ではあるので、「1人増えるインパクトは大きい」って特にオーナーは考えていたみたいで、どうやって楽しく暮らすか、みたいなお話をたくさんしていただけたのは安心材料として大きかったですね。
先に来ていたご友人が地域のコミュニティに溶け込んでいたというのが大きかったんですね。それでは移住への不安はありませんでしたか?
そうですね。十和田市の中心部と比べたらお店が少ないとか病院がなくて診療所しかないとか、そういうのはあるんですけど、不便さは多分慣れるんじゃないかな…わりと楽観的に考える方なので。私が住んでいた東京とか神奈川とかだと、コンビニとかお店が近くにあって、自転車でどこにでも行くし、それ以上の距離の移動となったら電車だったんですよ。こっちは車じゃないとどこも行けないし不便かもしれないけど、逆にその不便さが面白いです。実際、今、十和田市内のスーパーまで車で片道1時間くらいかかりますけど、通り道が自然豊かで、通るたびに景色が変化してきれいなので“週に一度のドライブ”って感じで楽しんでいます。不便さも楽しみとか良いことに変えられたら楽しいじゃないですか。ってこれは、オーナーの受け売りですけど(笑)。
先輩住民の方々が楽しみ方を教えてくれるんですね。
そうですね。移住者も含めて地域の全員が同じくらい仲良しということはないと思いますけど、私は仲良くさせていただいて楽しいです。「絶対、ここのコミュニティに入らなきゃいけない」とかもないし、これからも変わっていくかもしれないけど、それはそれとして。
ゆるやかな繋がりが居心地の良さを作っているんですね。それとお仕事で言うと、お友達が十和田サウナのスタッフをしていらしたというご縁があったんですね。
実はその友人が今の夫です。
そうなんですか! まさにご縁ですね。おめでとうございます!
ありがとうございます(笑)。彼は最初はサウナに入りに来て、魅力にひかれて「働きたい」って言ったみたいなんですよね。仕事を辞めて来ていて、住むところも決まっていないから、まず住まいからオーナーに紹介していただいて。そういうところから始まっていったので、一般的な雇用関係よりも距離が近いですよね。
職と住でお世話になったんですね。お住まいはオーナーさんとご近所なんですよね。
そうですね。十和田湖のそばです。地域にはオーナー夫婦のほかにも、ゲストハウスを経営している方とか、カヌーのガイドさんとか、移住者が多い印象です。あとは昔からの観光地でお店をやっている人が多いから、外から来た人に対して慣れているのかな。ご近所さんが話しかけてくださったり、お野菜をくださったり。「今日こういうことがあったよ」ってたわいのない話をよくするんですけど、あんまり年齢とか、移住してきたとか、お互いに気にしてない気がします。周囲の方のあったかさが嬉しいですね。
十和田湖は住宅もあるような地域なんですか?
住宅が集まっている場所もあります。多分、観光客の方だと見つけにくいかもしれないですね。今は夫がもともと住んでいた一軒家に私も住んでいるんです。市街地と違って賃貸もあまりないですし、家を借りるのが難しい地域みたいなんですけど、夫はご縁があって借りることができたんです。物件の情報は来たばかりの人だとなかなか分からないので、先輩移住者のサポートが本当にありがたいですね。
では、移住前から住むところは決まっていたとして、お仕事のことも事前にパートナーさんとお話しされていたんですか? 彼の抜けた後に千葉さんが入るという形ですか?
いや、それがそうでもなくて。とりあえず私がもう移住したいって来て、夫は夫で今年で辞めて転職すると言って。私が求人サイトで検索して見つけて応募して決まった、という感じ。たまたまタイミングが合ったんです。
ちなみに、転入の時に利用された補助金などはありますか?
まず、引越し補助金はいただきました。引越しにかかった費用を計上して提出すると、費用の2分の1とか3分の2とか補助していただけるものですね。補助の割合は世帯の状況によって違うんですけど。あと移住支援金も申請中です。これは東京圏からの移住に限るようで、要件はいくつかあります。市役所の方がすごく協力的で、どんな制度が使えるか色々と教えていただいて、すごく助かりました。
今こうして十和田サウナの施設前でお話を伺っているわけですけれど、あらためて、本当にすぐ目の前が十和田湖なんですね。この可愛らしい小屋が、いわゆる「バレルサウナ」。樽の形のサウナ小屋だということで。美しい湖の景色、澄んだ空気、静けさと、サウナ…素敵ですよね。有名人の中にも十和田サウナファンがいたり、メディアでもたびたび取り上げられているのも必然というか。千葉さんは今はスタッフとして働かれているわけですが、サウナに入られたことはあるんですよね?
はい、ありますよ。まず体験しないとお客様に説明もできないので。
どうでしたか?
もう最高ですね! 見て分かる通り、ここには一般的なサウナ施設のような水風呂はなくて、十和田湖がその代わりなんです。
サウナを出たら湖に直行ですか!
自然との一体感が感じられて、最高に気持ちいいですよ。季節によって、天気によって、時間帯によって、景色も気温も風も音も全部が変わっていくので、一瞬も同じ時はないんです。贅沢な時間ですよね。だから十和田サウナは、ただサウナが気持ちいいというだけではなくて、自然との一体感とか、今ここに流れる時間を楽しんでいただく場所なんです。
スタッフとしてのお仕事の内容は?
朝9時、12時、15時からの3枠で、貸し切りでお客様をお迎えするので、私はその日の最初の予約時間の2時間前ぐらいに出勤します。来たら椅子を並べて、薪を燃やして火をおこして、アメニティの用意をして。温度はだいたい80~110度くらいまでなんですけど、お客様のお好みに合わせて温度調節もしますね。最後、15時からのお客様が出られたら、後片付けとか洗濯をして、終わるのは18時くらいです。
お仕事をしてみて、どんな感想を持ってらっしゃいますか?
そうですね。まだ始めたばかりですけど、仕事をしながら自然を感じられるのが嬉しいです。消防でも五感を使って仕事をしてきましたけど、こっちはまた違った意味で五感を働かせてやる仕事で、それがちょっと楽しい。いろんな発見があります。
発見ですか?
例えば、ここではけっこういつも鳥が鳴いているんですけど、季節によって変わるんですよ。だから写真を撮ったり、鳴き声をヒントにして検索したり。勉強中です。
となると、十和田の中のお気に入りスポットは?
はい。やっぱり十和田湖ですね。朝 7時に出勤すると、今の季節だともう太陽が上っているんですよ。朝はわりと風が落ち着いていて、凪いだ十和田湖がすごくきれいで癒されます。だからお客様にも、十和田湖の魅力をどうしたら伝えられるかを勉強しているところはありますね。
じゃあ、お休みの日も十和田湖で?
いえ、それは(笑)。サーフィンが趣味なので、朝早くから海に行っちゃいます。今は三沢市に行っていますし、八戸にもサーフィンのスポットがあるみたいですね。あとはゲストハウスのお手伝いをして、一緒にご飯食べたりとか。私の親世代にあたる方なんですが、家族ぐるみでお世話になっています。それと銭湯も好きなのでよく行きます。ポニー温泉とか…十和田市は銭湯が多いですよね?
青森県は人口10万人あたりの公衆浴場数が全国最多だそうですよ。車にお風呂道具を常備している方も多いですよね。
最後に地域の課題や今後の展望についてお伺いします。まず今後やってみたいことや目標がありましたら教えてください。
住んでみてびっくりしたのが、皆さん、自然の知識がすごいんです。山菜の種類とか自生する場所とか、下処理から調理法から、色々教えてくださるんですよ。カヌーのガイドの方も十和田湖の植物とか野鳥とかにとても詳しくて、とてもかっこいいんです。だからさっきもお話ししましたけど、私も十和田湖周辺の自然について勉強して、お客様にお伝えしたいというのはあります。サウナの魅力にプラスしてお話しできれば、より十和田湖を楽しんでいただけるんじゃないかなと。
あと、雪かきも今から楽しみです。冬はまだ越していないんですけど、1月にも十和田湖に来たことはあって、その時もすごい豪雪で、1日雪かきをしていました。で、楽しいなって(笑)。寒さも不思議とあまり感じないんですよね。東京の10度と十和田のマイナス8度のどちらが寒いかいうと、意外と東京かもしれないです。数字で見るとマイナスなんですけど、全然寒くないって感じています。雪景色はきれいですし、体感温度からいっても雪は良いものだなって思います。十和田サウナは国道から宇樽部キャンプ場への道は車が通行止めになる冬季期間中、1日1組限定でサウナまでの道のりをスノーシューを履いて歩くっていうアクティビティを用意しています。
「十和田がこうなったらもっといい」と思うことはありますか?
私はもともと住んでいた方のバックアップがあって移住できましたが、人口を増やすには、住環境について行政などがもう少し情報発信をしてもいいのかなと。あとは、冬は観光施設などが閉鎖になると聞いているので、それはちょっと寂しい気がします。冬とか雪を生かしたサービスが増えたらお客様に楽しんでいただけるし、観光業の働き手が通年で安心して働けるようにもなると思います。
なるほど。住環境の情報が分かりやすくなり、通年の雇用が増えればもっと良いということですね。
一方で、住んでいる人のコミュニティやネットワークによって移住者が増えるのも、それはそれで良いことだと思うんですけどね。十和田湖が好きっていう共通点もあるのか、皆さんとても気さくで話しやすいし、暮らしを積極的に楽しもうとする姿勢があるから、一緒に居られて楽しいです。例えば十和田ではニンニクがたくさん穫れますけど、「ジョージアという国の料理はニンニクをたくさん使うからジョージア料理にアレンジしよう」とか。
オーナーがよく言うんですけど「まずは自分が楽しんで、それを伝えていくことが大事だから」って。だからこれからも楽しんでいきたいですし、来たいなと思う方がいらしたら歓迎しますよ。
前向きなメッセージをありがとうございました。ぜひこれからも楽しんでください!
ありがとうございました。
今回の取材場所
十和田サウナ