人、街、景色が混ざり合い、鮮やかな色になる。
暮らしのインタビュー
髙橋 純也さん
【2018年移住・Iターン】
1972年生まれ。
東京都江戸川区出身・農業
純白に輝く『野辺地葉つきこかぶ』に〝ひと口惚れ〟
畑から引き抜いたばかりの『野辺地葉つきこかぶ』。みかんでも剥くように指先で皮を剥くと、中から真っ白に輝く実が顔を出しました。
「このままかぶりつくのが一番おいしいんですよ!」
こかぶ農家の髙橋純也さんに言われるまま口に運ぶと、水気がしたたり落ちそうなほどジューシー。歯にほとんど抵抗がないほど柔らかな食感に、やさしい甘み。根菜の辛みやクセはまったくありません。
「葉っぱも柔らかくてクセがないから、お浸しでも炒め物でも何でも食べられる。丸ごとおいしいのも葉つきこかぶの特徴です」
畑を見渡して目を細める髙橋さんは2018年、野辺地町の地域おこし協力隊に着任し、東京から移住した新人農家。Iターンのきっかけは、まさにこのこかぶです。
髙橋さんの前職はトラックドライバー。仕事柄、全国から青果や花きが集まる大田市場に出入りするうち仲買人と親しくなり、珍しい食材を教えてもらうこともしばしばでした。そうして紹介された食材の一つがこかぶ。
「初めて食べたときの衝撃は忘れません。『今まで食べてたかぶは何だったんだ!』って」
以来、箱単位で購入しては一人で平らげるほどのファンになりました。
当時、40代中盤を迎えて転職・移住を検討し始めていた髙橋さん。野辺地町がこかぶ農家の後継者を募集していることを移住イベントで知り、迷った末に応募に踏み切ります。
「はじめは全然違う地域を移住先候補にしていたんです。農業は未経験で不安もあった。でもやっぱり、あのすごいかぶを今度は自分で作ってみたいという気持ちが勝ちました」
厳しい自然を逆手にとった先人に感謝!
下北半島の付け根にあたり、北に陸奥湾、南に八甲田連峰を望む人口約13,000人の野辺地町。『ヤマセ』と呼ばれる太平洋からの偏東風の影響で、気候は年間を通じて冷涼。豪雪地帯でもあります。東京の下町で生まれ育った髙橋さんにとって、移住当初は戸惑うことも多かったとか。
「3月上旬に来たら、こっちはまだ雪の中。路面は凍っているし。覚悟して来たとはいえ、レベルが違う寒さにびっくり。これはエライとこに来たなと(笑)」
しかし先輩農家のもとで研修を積むうち、苦手な寒さに対する気持ちに少しずつ変化が。
「研修先では土づくりや肥料についてのほか、こかぶが特産品になった経緯も学びました。野辺地町は夏場もヤマセが吹いて、冷害が多かった。だから比較的悪天候に強いこかぶを選んで栽培したそうです。むしろ涼しいところで育つから、今のようにみずみずしくて甘いこかぶになる。そう思うと、厳しい気候にも意味があるし、気候をうまく利用した先人方に感謝です」
「先輩方にお話を聞いていると、早く自分でやってみたくなった」と髙橋さん。
葉つきこかぶは5月下旬から10月いっぱいまでが旬。この間はほぼ毎日収穫作業に追われます。みずみずしさを保つため収穫は深夜にスタートし、日の出前には終えなければなりません。午前中に洗浄と選定、梱包から出荷まで行います。
11月、雪が降り始める頃からは農閑期。畑の片づけをし、肥料を撒くなど来シーズンに向けた準備も。3月中旬、畑仕事が本格化するまでは、高齢者宅の除雪作業をしたり、町の特産であるホタテの養殖所でアルバイトをしたり。比較的のんびり過ごします。
「自分のペースで仕事ができるし、休みたいときは休めるし。酒飲みたいときは飲むし(笑)。勤めていたときより気持ちはゆったりしていますね」
仲買人に選ばれるこかぶ作りを目指して
野辺地町に来て良かったと思うことは、「一生続けていける仕事に出会えた」。
こかぶは軽量で持ち運びやすく、女性や年配者でも栽培しやすいという特徴もあります。現在40代後半の髙橋さんですが、農家の先輩は60代、70代が現役で活躍中。そのたくましい姿に、自らの未来を重ねます。
「東京でこかぶを食べていたときに、こんなにいい商品なのに知名度が低いのが残念だと思っていました。だから個人的に色々なところに出したいのもありますが、野辺地葉つきこかぶのブランド自体をもっと知ってほしい」と高橋さん。
現在は農協の直売所や、2016年オープンした町の新名所『のへじ活き活き常夜燈市場』に出荷していますが、これからは生産の安定・品質の向上とともに、より販路を広げるのも目標です。そのため、採れたこかぶの一部は東京の行きつけの居酒屋や知人などに自ら送り、感想を聞くようにしています。
「仲買さんから『高橋のこかぶを持ってこい』って言われるようなこかぶを作りたい」
百戦錬磨のプロに指名買いされる、究極のこかぶ作りを目指して。髙橋さんは今日も畑を耕し、種を蒔くのです。
一日のスケジュールは?
23:00・起床。
忙しいときは23:00に起きて収穫を始めます。
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農作業
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7:00・農協の直売所に納品。
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食事や休憩を挟みながら、畑の仕事をします。
逆に雨の日や休みたい日は、予定を決めずに寝たいだけ寝る!
休日の過ごし方は?
冬以外の時期は、つい畑の世話ばかりしてしまいます(笑)。あとは『野辺地町歴史を探る会』という地元の歴史サークルに参加したりも。今は江戸時代に書かれた文書の読み方を教わっています。
野辺地町の便利なこと・不便なことは?
不便なのは、なまりで大先輩農家の方々が何を言っているか分からないことがある(笑)。それと、お店が少ない。十和田市内に農業研修に行った後は、必ずお気に入りのコンビニに寄ってから帰ります(笑)。でも人が温かいところはすごくいいと思いますよ!
野辺地町のお気に入りスポットは?
常夜灯公園。やっぱり歴史が好きなので。ここにある『浜町の常夜灯』は江戸時代に作られたもので、国内に現存する石造りの常夜灯としては特に古い、貴重なものなんですよ。