移住者インタビュー

十和田で実現した「好き」だらけの毎日。

COLLECTERS INTERVIEW#009

創作ユニット「字と図」

吉田 進さん

東京都杉並区出身(Iターン)

吉田 千枝子さん

青森県十和田市出身(Uターン)

職業:グラフィックデザイナー+ライターの創作ユニット
移住年:2013年9月

<進さん>グラフィックデザイナー。1976年生まれ。多摩美術大学在学中からデザイン会社に勤務し、フリーランスを経て起業。千枝子さんの第二子妊娠・出産を機に2013年、十和田市移住。市内唯一の酒蔵「鳩正宗」に2年間勤務した後、退職。夫婦で創作ユニット「字と図」としてイベントプロデュースなどにも活動の幅を広げる。字と図の「図」。<千枝子さん>ライター。1975年生まれ。大学進学のため上京し、卒業後は編集者に。ティーンズ向けライトノベル編集部や映像専門誌編集部などでキャリアを積む。第2子の妊娠・出産を機に家族とともに十和田市にUターン。「字と図」の「字」。 〈 URL 〉http://jitozu.com

震災とカナダ、価値観が変わる瞬間

 2011年3月11日、東日本大震災が発生――。吉田進さん・千枝子さん夫妻は当時、東京都内で長女と3人暮らし。進さんはデザイン会社を経営し、朝から深夜まで仕事に没頭。千枝子さんは購入したばかりの自宅で、1歳の長女の子育てに専念していました。35年の住宅ローンは重いけれど、がむしゃらに働けば返済できる。月に数度しか取れない休日には渋滞を耐えて隣県の海岸まで出かける。「それなりに幸せ」な生活に満足していた進さんですが、震災を機に自らの生き方に疑問を持ち始めます。
 「人はこんなに突然死んでしまう。そう思ったら優先順位が変わったんです。もう仕事ばっかりしていられない、やっぱり家族が一番大事だな、と」
 情報が錯綜し、原発事故の影響も分からない状況に不安を感じた吉田さん一家。進さんは生活のため仕事に復帰しますが、千枝子さんと長女はツテを頼って沖縄、鹿児島、カナダへと、約1年の避難生活を送りました。仕事の合間を縫っては家族のもとを訪れていた進さん、カナダでお世話になったご家族の生活に衝撃を受けます。
 「僕らの親世代ぐらいのお父さんが家にずっといてDIYをやって、全部自分で家を建てるんですよ。で、お金がなくなると『ちょっと仕事行くわ』ってガソリンスタンドで働く。衝撃でした。これでいいんだ、『こうしなきゃ』っていうものはないんだと」

移住そして蔵人から創作ユニット始動

 結婚、マイホーム、年収。ただ周囲に後れを取りたくない一心で突き進んできた自分に気づき、ライフスタイルを変えたいと真剣に考え始めた2013年3月。進さんの価値観を決定づける出来事が起こります。
 第二子を授かり、里帰り出産のため十和田市の実家にいた千枝子さんが、早期胎盤剥離で救急搬送。生まれたばかりの子どもはNICU(新生児集中治療室)に入院し、将来、介護を覚悟せざるを得ない状況に。家族で話し合い、出した結論は「十和田に移住して、みんなでこの子を育てよう」。 自宅が売れ、会社の株式整理を始めた矢先に第二子は亡くなりました。
「結局、子どもに呼ばれたのかな。ここで暮らしなさいって」と進さん。「家族が一緒にいられればそれでいいと思った。だから移住への不安は全くなかったです」と微笑みます。
 9月、家族揃っての新生活が始まりました。先輩移住者に相談した結果、デザイナーを続けるのは難しいと判断。進さんは心機一転、市内で100年以上続く酒蔵で、杜氏(とうじ)のサポート役である蔵人(くらびと)になります。蒸し風呂のような室で働く酒造りは体力勝負でしたが、やりがいを感じられる仕事でもありました。
 しかし同じ頃、進さんの前職を知る知人を通じて冊子制作の依頼が舞い込みます。蔵人のかたわら睡眠時間を削って制作すると、冊子を見た人から続々と問い合わせや依頼がくるようになりました。ライター・編集者の千枝子さんと夫婦創作ユニット「字と図」として動き出したのはこの頃。冊子の編集から十和田市現代美術館の展示、奥入瀬渓流ホテルのイベントプロデュースなども手がけるようになりました。

仕事、子育て。「好き」だらけの毎日

 「仕事が今、すごく楽しいんです。以前は会社のカラーが強かったんですけど、今は自分の好きなものを作れている。それを見た人がまた依頼してくれるから、周りがどんどん好きなもの、好きな人だらけになっていくんです」(進さん)
 夫妻のワークスペースは自宅2階。千枝子さんは2015年に生まれた長男の世話をしながら仕事に励みます。職住近接のメリットは、進さんも子育てに参加できること。小学生になった長女の送り迎えや長男のお風呂、食事作りなど積極的にこなします。また進さんは自宅で不定期にワークショップを開き、子どもたちにデザインの基礎を教え始めました。
「昔から、なんで義務教育にデザインがないんだろうって思っていた。将来デザイナーにさせたいわけじゃないんですよ。デザインの勉強してると何にでもなれると思うから」
 物事の本質を捉え、目の前の問題をクリアするために表現する。確かに、デザイン的思考には生活を豊かにするヒントがありそうです。進さん自身もデザイナーとして、子どもたちから日々刺激を受けているとか。
 「こちらに来てデザイナーの仕事について話したとき、『そもそも子どもたちが目指す職業が少なさすぎる』って話が出たんですよ。決まった職業しか知らないからそこしか目指さないけど、本当はデザイナーとかライターとか、もっといろんな商売がある。人と違うことを恐れず自由に生きていいってことを小さい時から教えたいんです」
 子どもたちとの交流は進さんの新たなライフワークに。同時に、地域の未来を動かす力にもなっていきそうです。

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